20110901

the Neyn tails stories


角に、ネインという名の店があった。優しいドーナツとクッキーと、心休まる珈琲に会える場所だった。明るい通りに面した店内には、いつも甘い香りが満ちていて、朝に昼に夕方に、気軽に訪れることが出来る店だった。
今は無くなったその店に、僕は何回通ったのだろうかと考えてみたけれど、美味しかったこと以外は、あまり思い出せないでいた。…良いのかな、それで。僕があのドーナツを好きだったことは、忘れられそうに無いのだから。
そして僕は最後のクッキーを、別の店の珈琲と共に口にして、静かにノートを閉じた。さよなら、ネイン。


東京
Neyn ネイン
http://www.neyn.com/




大好きな店が無くなってしまうのは悲しいもので、なのに何も出来ない僕自身の無力さは、失恋の喪失感と同じかも知れない。
幾度となく愛していると口にしたとて、終わってしまえば、それはただの戯言と変わらないだろう。それでも僕は、僕が口にした愛に偽り無きことを誓うためにも、この温もりと感謝の気持ちを、忘れないでいるだろう。僕が年老いて、たとえ君の名前を、思い出せなくなったとしても。