緑
色の瞳と、金色の瞳を持った黒猫が、月の無い夜を散歩していた。僕の部屋の窓ガラス越しに目が合ったので、こんばんはと挨拶をすると、至福の右目をウインクして、穏やかなフランス語で御機嫌ようと返された。…あぁ、この猫は、エリシオンの月猫だったのだ。浅い眠りの微睡みの中で僕は、深い闇に包まれながら、今宵は良い夢が見れそうだ。
最後の錬金術師と、エリシオンの黒猫が紡いだ夢の続きは、いずれ何処かで密やかに。
シャルトリューズ・ヴェルト(Chartreuse Verte)
パオロ・ベルタ(PAOLO BERTA 1990 Berta)
初めての出逢いは、はて、何時のことだったろうか?
初訪問の日も、通った回数も、この魅惑的なショコラに会えなくなることも関係無いほどに、“ghost”という名のパティスリを、僕は愛していた。この街で生活することの一部として、欠かせない存在であった。
それでも時は流れ、別れの日は来たのだけれど、何だかそれも可笑しな話しで、サヨナラと言う気分にはなれなかった。不思議だけどね。
だから一言、夜の闇越しに僕は、『御機嫌よう』と呟いた。それは、星の囁きよりも小さな呟きであったかも知れないけれど、一瞬、満月よりも明るく輝いて、淡くにじむように消えていった。