緑
陰のせせらぎに、夏が煌めいていた。歌うように跳ねる木漏れ日を眺め、そよ吹く風に微睡んだ。溶けていく記憶の中で僕は、見知らぬ貴婦人の名前を呼んでいた。佇む君を、振り返らせたくて。
Mystique(ミスティック)
serenity of mind becoming a person who is identified with the clouds in the sky and the stream below.
眺
める坪庭は小宇宙。美意識を越えて佇む侘びと寂び。詰め込むのでは無く、匂わすように配される、季節と静寂。陽
炎にゆれる幻想は甘く、透き通る宝石のような羽根を得た光が、鮮やかな緑に踊っていた。朝
露が弾けて、夏色の虹が花々の上で踊っていた。妖精達は歌う。女王の美しさと麗しさを。眠
れない夜の魔法を教えてあげる。ほら、目を閉じて。夏
の夜、熱冷めやらぬ宵闇に、ふわりと漂う甘い風。昼間の月が残した吐息だろうか? それとも、青空に消えた綿雲が、黄昏に見た夢の残り香なのだろうか?瞳
を閉じても薫る、君への想い。昼の木漏れ日に、茜さす窓辺に、宵待ちの書斎にひっそりと、目には見えぬ薔薇が咲いていた。祇
園祭の鐘の音、寂滅為楽の願いあり。煌
やかなる銀波の上を、女王の船が往く。黄金の帆を立て、天上の花風に吹かれて、夢幻の海原を滑るよ。募
る想いは雨に香り、世界をやさしく包んでいく。あなたのことを、愛しく思うこの気持ちが、やわらかな雨を紫に染めて。西
の空、黄金色に輝く群雲の下に、鮮やかなルージュ。太陽のサヨナラが、地平線の彼方に沈んでいく。夏
空を見上げれば、太陽の吐息のような、浮き雲プカリ。長
閑な午後の、散歩の途中。ふと立ち寄ったのが初めてで、以来こんなにも通うことになろうとは、思いもしなかった。王
都に咲ける紅い花は、神々に捧げられた美しい薔薇。海に沈む太陽の色は、花の女王に相応しき色。荘厳なる夢の香が、優しく唇の上で踊る。高
く青い空を見上げると、夏が追い越していった。颯爽と、風を光らせながら。美
味しさを知るのは味覚だけでは無くて、五感の全てとそれ以上の愛情なんだと思う。だって、出会えた瞬間に笑顔になり、喜びが想い出に変わるのだからそれは、やっぱり愛なんだ。