L
es adieux au printemps.風に散り、雨に落ち、儚く震える桜の花よ。僕らの幻想をよそに、今年も力強く咲き誇っていた。だから来年も、また逢いたいと、薫風にそよぐ桜の樹を見上げて呟いた。
名残り(SAYONARA)
京都
嘯月 しょうげつ
serenity of mind becoming a person who is identified with the clouds in the sky and the stream below.
L
es adieux au printemps.散
ってしまった花びらや、 残された萼より淡く、甘く香る優しさが、僕を夢の国へと誘う。夢
に咲く、此処が世界の中心。全ての人が、詩人になれる国。君
の寝顔を、太陽が優しく照らしていた。吐息は香り、夢の雲を青空へと浮かべては消えた。夢
に咲く八重桜。その可憐さは微笑む乙女に似て、美しくも儚げだった。僕たちの記憶に笑顔だけを残して、夢に消えた乙女。恋よりも淡い、甘い残り香を追えども姿は見えず、ただ、温もりだけが其処にあった。桜
散る春の午後、夢が零れる樹の下で、長閑な午後を楽しむ。花を肴に酔いしれて、日が暮れるまで語ろうか。春
に舞う雪は薄紅色の、優しい吐息のような桜吹雪。木漏れ日に眼を閉じれば、夢幻の園に迷い込む。空
を染める桜吹雪に傾いてみれば、常世の夢に彷徨う。うたた寝に見る夢は泡沫の、短き戯れの酔夢。ならば歌おう、満月の空に。欠けることも満ちることも無い、久遠の空に。月
から溢れた香気は光となりて、今宵の夜空に降りそそぐ。青
空を想い、花を捧げた。強いチューリップの花を一輪、さよならの代わりに。天国はきっと、あの空の向こうにあるのだろうと、そう思える青さだった。咲
く花の永遠は、優しさの中に。時が止まった城の中に咲いていたのは、希望という名の花。冬の終りにサヨナラを告げ、春の扉を開く鍵、桜草だった。咲
くように、囁くように、君の心に寄り添うよ。芳
醇な太陽のアロマを思い出す、柔らかなランプの灯り。夜の寂しさと、眠りに落ちるまでの短い道を、光は淡く優しく照らしていた。夢枕で空想の羽根ペンをくるくると回していると、フワリと甘い記憶が蘇る。その微笑みを、微睡みの日記に綴った。春
は香る。風は踊り花を咲かせていく。幾つもの花を。美しい花々を。白
雪の下で眠る、春の花とトキメキよ。その甘い夢を、僕に教えておくれ。君が夢見る、春の夢を。花
霞の舞う空の下で、桜の樹を眺めていた。花は笑い、葉はさやさやと囁いていた。見上げた青空に月が居ないのを不思議に思った僕は、心が舞い上がりすぎていたのだろうか?京
都の吐息。京都の眼差し。僕らは何も知らない。目に映る全てに宿る、見えない余韻。耳に届かぬ全てに響く、聴こえない囁きを。零
れた涙の一雫が、心に静かな波紋を描いては消えた。悲しみとか、切なさとか、それらとは違う想い。例えるならば、桜咲く風景を眺めた時の、歌人の心境に近いのかも知れない。月
は踊る。静かな夜の湖で。雲間から差す月影は、可憐な白鳥たちの幻想を見せてくれた。月の光は羽毛のように柔らかく、煌めく細波に踊っている。風
に花が咲いていた。ただそれを眺めていた僕は、触れることの出来ない香りにそっと、サヨナラのキスをした。月の雫は甘く輝いて、少しだけ時を止めた。思い出を夢に変える、刹那の吐息の時間だけ。