20101103

愛しい人よ


L

a chocolat s'éveiller des souvenirs.
香りを辿ると、そこには想い出が咲いていた。その花の名前は、初恋だったかも知れないし、初めて愛した人の記憶であったのかも知れない。何故ならそれは、とても心地良かったから。深い眠りの中で微睡むような、幸福な感覚が、溶けていくチョコレートの中に咲いていたんだ。

Chocolat frambois(ショコラ・フランボワーズ)


アルザス
MAISON FERBER メゾン・フェルベール



キッチンで、待ち切れない僕は思わず一口食べてしまったんだけど、ブルノーは笑いながら、
『沈む夕日が綺麗だから、庭で楽しもう!』
そう言って彼は、椅子とテーブルを運んでいった。僕はコーヒーカップ片手に追いかけて、並べられたデッキチェアに深く腰を下ろし、二口目を忘れるほどに美しい夕日を眺めながら、しばし茫然としていた。
『食べる?』
差し出された(山盛りの!)フランボワーズの香りで我に返り、その柔らかな甘味と酸味を楽しんでいる時に、ふと気が付いた。ショコラとフランボワーズの関係を。
太陽は、西の空と葡萄畑を赤く染め、黄金の光条を放ちながら、明日へと沈んでいく。振り返るように見上げた紺色の空には、もう星が瞬いていた。