20101130

Réveiller dans la nuit


J

e garderai un bon souvenir de mon séjour en France.
帰国して一ヶ月が過ぎた。その間に季節は色を変え、艶やかな秋はもう終りを告げようとしている。
昼に夜に、様々なこと_正確に言えば、それは1つのものに集約される_を考え、嘆き、悩んでいるけれど、時も、風も、止まりはしない。流れ続けているのだ。
僕に出来る事は少ないが、それをやらなければならない。だから友よ、協力しておくれ。この無力な僕に。

それぞれの花


が美しいのは、何故だろうか?
その答えは簡単。花は花故に美しいのだ。
たとえ誰に知られずとも、花は美しく咲き、美しく散っていく。
それ故に僕達は、花を美しいと感じるのだ。

Tarte Linzer


京都
SALON DE THÉ AU GRENIER D'OR オ・グルニエ・ドール



帰国して、最初に確かめたかったことは、このリンツァー。僕の中で、フランスと京都を繫いでくれたのは、このタルトだと思うんだ。
サロメちゃんが美味しと言ったリンツァーをいただきながら、色々と考えた。日本のこと、フランスのこと、お菓子のこと、文化や歴史のetc.
…もっと長く、例えば数年間フランスで暮らしたら、今の悩みの答えは得られたのだろうか?
Non, non.
そんなに簡単じゃない。でも、悩みの先へと進むなら、答えには近づけるさきっと。だからそろそろ歩き出そう。その先へ、綺麗な薔薇が咲く、茨の道の、その先へ。

そうそう、リンツァーなんだけど、フェルベールさんのリンツァーには母の優しさがあって、グルニエドールのリンツァーには、季節を眺める日本人の心があると感じたよ。個人的な、僕の感想なんだけどね。
どちらが好きかなんて決める必要が無いのは、花の美しさにたとえると理解してもらえるだろうか?

優しい夜


夜に眠る幽玄を。月影の黄金と、真実の夜を。
罪深き僕に、教えてくれないか。
夢から醒めた、夢の続きを。

かぼちゃのブリュレ・温かいりんご添え
 &シェリー酒
Crème brûlée au potiron et Pommes flambé
Sherry(Valdespino Inocente)


京都
遊形 サロン・ド・テ ゆうけい



the Power of solitudes
孤独は悲しさとイコールでは無いし、優しさから遠い場所にあるものでも無い。もし、そう感じるのならば、それは貴方の心の弱さだ。
うつむいていないで、顔をあげて月を見て。
寂しさのすぐそばに、あたたかい優しさがあることを、僕たちはつい忘れがちだ。

俵屋旅館の南にある、遊形サロン・ド・テ。秋にはかぼちゃのブリュレがあって、これがとても優しく美味しい。
このブリュレを、関谷江里さんは金屏風のようだと表現された。シルエットも、能における意味的にも、これ以上の表現は無いと感動したのを憶えている。
僕はまだまだ辿り着けないので、宵闇と、お酒のチカラを借りてみた。…花の香の先、幻想の夜道で出会ったのは、ボードレールとドビュッシーだった。




Nous aurons des lits pleins d'odeurs légères,
Des divans profonds comme des tombeaux,
Et d'étranges fleurs sur des étagères,
Ecloses pour nous sous des cieux plus beaux.

Usant à l'envi leurs chaleurs dernières,
Nos deux coeurs seront deux vastes flambeaux,
Qui réfléchiront leurs doubles lumières
Dans nos deux esprits, ces miroirs jumeaux.

Un soir fait de rose et de bleu mystique,
Nous échangerons un éclair unique,
Comme un long sanglot, tout chargé d'adieux;

Et plus tard un Ange, entr'ouvrant les portes,
Viendra ranimer, fidèle et joyeux,
Les miroirs ternis et les flammes mortes.

STAR WALKER


B

elle nuit étoilée.
グラスを傾けると、漆黒のテーブルに星空が咲いた。うっとりと眺めるようにして、銀のナイフを入れると、輝く流れ星が闇を駆け抜けていった。何かを願う間も無いほどに、美しい夜だった。
さぁ、僕達の月と踊ろう。星と共に、銀河のステップで。

BLACK BUSH


京都
gion ghost ギオン・ゴースト



京都へと戻り、旅の疲れも抜けた頃、友人達と集まった。特に意味も無く、ただ何となく、毎月のように集まっている。今回は、祇園のghostにお願いして、様々なお酒とケーキのマリアージュを楽しんでみた。なかなか楽しい発見があり、皆も喜んでくれたと思う。
集まりは不定期で、誰からとも無く希望が出るから、それをまとめて場所と日時を決める。だから毎回、集う面々は異なるけれど、なんだか気が合う者達ばかりで、実はとても感謝している。何故なら僕が、とても安心出来る人達だから。
そうだな…例えば、夜空に輝く星座は、人間が想像した物語に過ぎず、実は隣り合ってもいなければ、近い者同志でも無い。光の速度ですらももどかしい程に、遠く遠く離れているんだ。
孤独な星と星を結びつけるのは、愚かで幼い僕達の、ただの幻想だ。でもそれが、とても美しい物語を描くのは、決して幻なんかじゃないんだよ。
特に、こんな美しい夜にはね。

20101129

Quand Même


く稜線を眺める。鮮やかなルージュ。葡萄色の空の境界線を、ロマン派の詩人たちが通り過ぎていく。
甘いそよ風の先に、歌声が咲いていた。銀嶺に立つ、サラ・ベルナール(Sarah Bernhardt)の美しさ。孤高では無く、高嶺に咲く麗しき花よ。

モンカレ(Mont-Carré)


京都
Le Sucrier ル・シュクリエ
http://lesucrier.web.fc2.com/



フランス菓子の甘い残り香も、僕の服に着いていた香水の香りも、だんだんと薄れていく。多くの人に甘えて暮らしたし、たくさんお世話になったのだから、何か恩返しをしたいと強く願うようになった。…僕には何が、出来るのだろうか?
迷い悩むことが多くなったけれど、これは恋の悩みのようなもので、痛みや苦しみすらも、きっと甘いのだ。そう、甘いのだよ。
だからその甘さ、シンプルな喜びについて、僕はもっと考えるようにしよう。それこそが、辿るべき道なのだ。

出町柳のこの店も、フランスの雰囲気を淡く感じられるので、未来を考えるには、ちょうど良い場所に思えた。そして今日もまた、窓の向こうに綺麗な幻を見せてくれたんだ。

Kyoto et Paris


M

émoire de la rose.
蕾の時から薔薇は薔薇で、可憐な花を眺める私の眼差しは、愛娘に対する親の愛しさと同じだった。そう、ただ愛しさだけが、咲いていたんだ。

Mignon(Kawaii)


京都
Patisserie petitjaponais プチジャポネ
http://plus5.jp/pj/


このblogには、好きだけを書きたいし、好きなものだけを並べて眺めたいのです。それは例えると、あなたの自慢の子供や恋人や妻を賞賛するのと、なんら変わりません。いわゆる親バカですね。
でもさ、それで良いじゃない。甘いものを前にして、甘いお菓子を口にして、甘くない話しが出来るなんて、僕には信じられないよ。…ねぇ、だからもっと、甘い話しをしようよ僕と。

さて、ところでこのミニョン。僕が描いたスケッチに、フランス語で説明を添えた最初のお菓子なんだ。初めて出逢った時からずっと、薔薇の幻想を重ねてしまうほどにこのお菓子を僕は愛しているのだけれど、君に1つ質問がある。
ねぇ、このお菓子、君にはどう見える? 僕は、シャルロット(Charlotte Gainsbourg)なのか、ソリータ(solita)なのか、どちらに似ているのだろうかと考えているよ。
そしてココはとても需要なんだけど、彼女らの母である素晴らしい女性、ジェーン・バーキン(Jane Birkin)とクレモンティーヌ(Clémentine)を、僕はとても尊敬しているんだ。
だから、簡単にはどちらと決められなくてさ、僕にとってのこのお菓子は、いまだに薔薇の蕾のままなんだよね。

Mon Amour


が吹くように、花が咲くように、季節が移ろうように。淡い恋はやがて、深い愛へと辿り着き、甘い香りで満たされる。
ほのかな夢から紡ぎだされたのは、1本の、運命の糸だった。手を繫ぐように僕たちは、魅かれ、結ばれていく。

秋風(Le vent d'Automne)





久しぶりにいただいた蕨餅は美味しくて、京都へ帰ってきた実感が溢れた。しみじみと、幸福が体中へと広がっていく。御主人と奥様に、僕は深く感謝した。
さて、と。やっぱり1つで終わることなんて無く、2つ目のお菓子に手を伸ばした。淡い色彩の秋風。糸車に巻かれた生糸を模した、おだまき(小田巻き、または苧環)きんとん。薯蕷と小豆のシンプルな和菓子だけれども、銘と季節と色彩が、味覚に大きく作用するようで、毎回異なる印象を楽しむことが出来る。
『色の濃さも食感も、同じものは出来ないんですよ。』
まだまだ未熟ですからと、謙虚な御主人。狙い通りの色や食感を作り出すのは、なかなか難しいそうだ。
上手くいかないもどかしさと、それでも美味しく美しくと求め続ける姿。…思うにそれは、恋に似ているのではないかと思った。だからこそ、通うほどに僕は、この店を愛しく感じるのだ。

Bonne nuit


は優しく夢を包み込む。あたたかい夜。やさしい夜。君が甘い夢を見れますようにと、星空が抱きしめてくれる。
だからおやすみ、愛しい人よ。夢の中で逢いましょう。

ガトーショコラ(Gâteau au chocolat)





フランス菓子って、なんだろう?
その疑問に対する答えは、フランス人の食事にあった。彼らはとても、食を大切にしていたし、食事を楽しんでいた。そう、楽しんでいたんだ。
それに比べて日本人は…なんて言っても無意味なので、楽しく食べることが出来るお店を訪れた。だからこの店も、僕にとってのフランス菓子なんだ。味覚よりももっと、大切なもの。それがこの場所には、ちゃんと有るのだから。
この可愛いガトーショコラで、笑顔にならない人っているの?

Mon ange


を見ていたのだろうか?それともまだ、夢の続きなんだろうか?
甘い浮遊感と、うっとりとする安心感に、世界は淡く、とけていく。
すべての子供に王冠を。すべての大人に白い翼を。彼らが、夢の世界で暮らせるように。

プリン・ア・ラ・モード(Le Pudding à la mode)





ア・ラ・モードなんて呼ぶけれど、実はプリンは日本語で、これは日本生まれのデザートなんだ。フランスから帰国して、最初に訪れた店がシトロンで、そこにこの可愛いプリンがあったから、迷わず選んでしまったよ。
…あぁ、僕はやっぱり日本人なんだよね。この小さなプリンに、大きな満足感と安心感を覚えて、ただいまとありがとうを呟いた。
ちなみに、これは断言出来るのだけれど、シトロンに満ちる雰囲気と、お菓子から感じる気配は、フランスで感じた喜びと何ら変わらないもので、同じ空を見上げていることが分かったんだ。味だけじゃないの。味覚だけじゃないんだよ。大切なものは、五感と、その先にあるんだよ。

僕は菓子職人では無いし、評論家でも研究家でも無いから、詳しい分析も、批判もしない。ただ、好きから始まったこの道が、恋を経て愛に至れば幸いだと、ミルキーな微睡みの中で願わずにはいられなかった。

20101128

LA POMME D'OR


く果実。それは雄大なる西海へと沈む、黄昏の太陽に似ていた。煌めく黄金。艶やかなる炎。真実の蜂蜜が、夕日へと溶けていく。神の果実は、ゆっくりと楽園へ沈んでいった。闇へ、夜へ、明日と呼ばれる未来へと。
再びこの果実を掴むために僕たちは、甘い夢を見るのである。星の海に、夜の静寂に、永遠と呼ばれる、束の間の幻に。
語り尽くせぬほどの夢を、僕たちは毎晩見ているのだ。忘れたなんて、言わせないよ。

Tarte Tatin


パリ
Blé Sucré ブレシュクレ



感謝と撮影の後、3つのケーキを美味しくいただき、それをスケッチして、お礼とごちそうさまを言うために、トレイを持って店内へと戻った。気付けば太陽は沈んでおり、向かいの公園は暗く、もう夜になっていた。
スケッチしたケーキを見せながら、マダムに感謝の意を述べると、
『あなた、日本人よね? ちょっと待って、ウチにも日本人がいるのよ。』
そう言って、奥から土屋さんを呼んできてくださった。仕事の手を休めて彼は、丁寧に私のスケッチの隣に、それぞれのケーキの説明を書いてくれた。
桃のケーキと苺のタルトは詳細を書いてくださったのだけれど、面白かったのが、このタルトタタン。
『これはね…おいしいりんご!それが全てだよ!』
確かに。一目見ただけで伝わってくる程に、この林檎の美味しさは素晴らしく、正に黄金の林檎であった。
(神話に登場する“黄金の林檎”のほとんどは、実はオレンジやトマトの事らしい。…でもさ、そんな事を言う古の彼らは、このタルトタタンを知らなかっただけなんだよきっと)
お忙しいのにシェフも顔を出してくださり、幸運にも直接お礼を述べることが出来た。
そしてやっぱりシェフも、こう言われるの。
『うん。美味しい林檎だ。それをガレットブルトンヌに乗せただけだからね。』
その笑顔には、力強さと優しさが見えた。
…ねぇ、シェフ、僕が知っているのは、黄金の林檎を手に入れることが出来るのは、神と英雄と、色男だけだったはずですよ♪

20101127

Jolie petite


い微睡みを夢見て笑う、春乙女。その笑顔に癒されて、冷たい風も和らぐ。
高く透明な青空に、玲瓏なる月の面影を探して、辿り着いた場所には、可憐な花が咲いていた。

Fraise sur gâteau


パリ
Blé Sucré ブレシュクレ



苺が乗ったお菓子、なんてシンプルな名前とはうらはらに、こんなにも可愛いタルト。日本には春乙女というチューリップの品種があって、その可憐さにも似ていた。
このタルト、上の苺の外側はショコラブランなんだけど、テラス席に連れて来て、どうやって食べようかと_だってほら、フォークで押さえるのも、ナイフを入れるのも忍びないほど可愛いし、実際、ちょっと硬いんだ_悩んでいたら、お店から出てきた小さい女の子が、真横でこっちをじっと見ていたんだ。
僕はフランス語は分からないので、会話の内容なんて推測なんだけど、
『ほら、あなたのケーキはもう買ったでしょう。家に帰りますよ。』
『だってママ、あのケーキも可愛いじゃない!』
『ケーキは1つだけです。』
『でも!』
そんな内容だと思うんだよね、たぶん。
僕は増々、食べるに食べれなくなり、ナイフとフォークを持って、肩をすぼめるしか無かったよ(苦笑)

20101126

Murmure du vent vert


風に乗って、甘い囁き声が聞こえた。野山を駆け、谷を飛び越え、七色の空を渡り、耳元で小さな花が揺れるような声だ。それはまるで、風の谷の魔法使いが、空の果ての恋人へ送った手紙に似ていた。
青空に詩を紡ぐように、そよ風が流れていた。

PV(Pêche Verveine)


パリ
Blé Sucré ブレシュクレ



風の谷の魔法使いが送った手紙というイメージは、ナイフを入れた瞬間に溢れた、桃とベルベーヌの香りで思いついた。ただ、あれから随分と経った今でも、手紙を送った相手が、魔法使いの恋人なのか、それとも異国の姫君なのかは、実は僕にも良く分からないでいる。もしかすると、その両方かも知れない。次回は、もっと耳を澄ましてみるよ。

あぁ、そうそう、この店を教えてくれたのは、フランシス・クラインのマリアンなんだ。彼は日本語が完璧で、ブレシュクレで働いている土屋さんの友人でもある。
ボナパルト通りのラデュレから出てすぐ、偶然訪れた素敵なメガネ店にて、僕が甘いもの大好きだと言ったら、ブレシュクレを紹介してくれたんだ。
『僕の友人が働いている店なんだけど、とても美味しいんだ♪』
その言葉は真実で、もし、付け足すことがあるとしたら、可愛いくてオリジナリティに溢れている事くらいだろうか。正直な話し、店内に1歩足を踏み入れた瞬間に、僕はこの店に恋をしたと言っても良いくらいだよ。
僕がバスティーユ界隈に住んでいたら、きっと毎週訪れるだろうし、例えば子供がいたとしたら、毎日一緒に訪れたかも知れないよね。向かいの公園へ行くのを理由にしてさ(笑)
それほどまでに、愛らしい店だと感じたんだ。


Francis Klein フランシス・クライン
http://francisklein.com/

20101125

Bon appétit !


咲くような、うららかな日曜日。何をしようか?どこへ出掛けようか?
あなたが居れば、どこだって良いわ。
そう言ってくれた君の笑顔が眩しくて、嬉しくて、でも照れくさかった僕は、君の手をとって歩き始めた。
大好きなあの店へ行こう。明るい陽射しに溢れた、あの店へ。

Millefeuille


パリ
http://www.lapatisseriedesreves.com/



日曜日は、私がミルフイユを作るから来てね!なんてエルザに言われたから、週末も16区のデ・レーヴへ。
お店へ着くと、ちょうど大きいサイズのミルフイユを組立てていた。フィユタージュアンベルセの上に、花畑みたいにクリームを絞り、またフィユタージュを重ね、繰り返す。最後に、フォンダンでキラキラと輝くフィユタージュの上に、ロゴのピックで可愛い模様を付けて、出来上がり。
『完成!さぁ、召し上がれ!』
いやいや、美味しいのは見ただけで分かるけど、このサイズ(30cmくらいのキャレ)は大きすぎるよ。小さいので充分!
『あら、小さいので良いの?それで足りるのかしら?』
…全くその通りなんだけど、他のケーキも食べたいじゃない(苦笑)

20101124

fly me to the moon


くような、月の香りを知っているかしら?
甘く、小さな蕾が花咲くような、静かなパフューム。蝶の羽根のような月光から、夢の夜空に降ってくるの。
そして彼女はそっと、美しく潤んだ瞳を閉じた。

Tarte Tatin


パリ
http://www.lapatisseriedesreves.com/



こちらも新解釈の古典菓子、タルトタタン。でも、タルトタタンには多くのバリエーションがあり、様々な知恵と技術でもって、美味しいタルトタタンを作られています。菓子職人だけではなく、家庭の味でもあると思うの。
さて、このタルトをどう表現しようかと考えていたら、ちょうどHelena Noguerraの歌声(Toi Mon Auto)が流れて、その甘さと浮遊間が、タルトの余韻に似ている気がしたのね。だから彼女の歌に、何かヒントは無いかと探し求めていたら、ジャズのスタンダードでもあるfly me to the moonに行き着いて、歌詞のイメージから、上の文章が書けたってわけさ。
そうそう、“言い換えれば”そーゆーコトだよね(笑)

PS.
僕はタルトタタンを食べて、それを素早くスケッチして、エルザに説明文を添えてもらった。
薄く重ねられた林檎も、歯ごたえの良いパイも美味しかったけれど、それを引立てるクリームが素晴らしかったので、これは何かと尋ねたら、
『フフフ、ここに書いてあるよ。』
そう言ってアセヌが指差した場所を見ると、Mascarponeと書いてあった。
オリジナルのクレームシャンティは、現在よりも濃厚で酸味があったそうだから、ここにも古典を大切にする思想が見えて、増々この店のお菓子が好きになったんだ。

mémoire


いを夜空に薫(くゆ)らせるように、ゆっくりとペンを走らせて、古き友への手紙を書いた。星が瞬くたびに、様々な記憶が蘇るので、楽しくも懐かしく、そして長い文章になってしまった。
だから読むのに疲れたら、窓を開けて、君の夜空を見上げて欲しい。
流れ星が見えたら、再会をお願いしといてくれたまえ。

Éclair Chocolat


パリ
http://www.lapatisseriedesreves.com/



そっとフォークを当てて、薄くパリッとしたショコラのシートと、フワリと香るシュー生地と、ゆったりとしたクリームを切っていく。その感覚は、銀のペーパーナイフを使い、封筒から丁寧に取り出して、親友からの大切な手紙を読む時の気持ちに似ていた。なんだかとても懐かしく、何故だか楽しいのだ。
エクレールの語源の1つに、稲妻のように速く、クリームをこぼさないで食べるというものがある。でもこれは、ゆっくりと楽しみたいと思った。少しくらい長居しても、良いじゃないか。…ねぇ?

Paris-Brest-Paris


に遊ぶ花の記憶。遠い道程を駆ける想い出。花の都から吹く風は、太陽の光の、甘さや柔らかさを教えてくれた。
名も知れぬ道端の白い花が、青空に微笑むような優しさを感じて、僕の心に喜びが咲いた。

Paris-Brest


パリ
http://www.lapatisseriedesreves.com/



パリブレストとは、ある菓子職人が自転車レースを記念して作ったことは、僕も知っている。きっと、店の前を選手達が駆け抜けて行ったのだろう。
その古典的なお菓子を、新しい形で作ったのが、この店のパリブレスト。メディアでは、新古典主義とか呼ばれる、パリの流行に乗ったものらしい。
僕は個人的に、美味しく楽しいと感じたお菓子のことしか書けないから、思ったままに述べさせてもらうと、これは花輪(ガーランド)に見えた。
今までのスタイルは、車輪をモチーフにしつつも、風をイメージさせるものだったけれど、これはきっと花なのだ。選手に架けられる物かも知れないし、沿道に咲く花なのかも知れない。そして何よりも、パリは花の都と呼ばれているのだから、僕にはこの空想が、スッキリと腑に落ちた。白く甘い花が、太陽に微笑んでいるみたいだ。
店名にあるように、夢を見させてくれる、素敵なお店とお菓子だったよ。

20101123

夢から醒めた夢


しく降りそそぐ光の中で、神様にお願いをした。すると、光の翼を持った天使が現れて、私にこう告げた。祈りなさい。願いが叶うまでずっと。
祈り続ける限り、願いはすでに叶っているのだと、優しい光の中で理解した。

Millefeuille vanille


パリ
pâtisserie Sadaharu AOKI paris サダハルアオキ
http://www.sadaharuaokiparis.com/



ミルフイユを口にした時に、何故かとても懐かしく思えた。その理由は何だろうかと考えながら、甘い夢にたゆたう。はらはらと散るフィユタージュは、降り積もる黄金の落葉に似ていた。溢れるバターの甘さは軽く儚く、それは光の羽根のようだと感じたらやがて、教会で見た、光り輝く天使のイメージと重なった。
パラパラとページを捲るように、もっと深く、もっと深く光の中を覗いてみると、懐かしさの理由に気が付いた。キャラメリゼ、つまり砂糖なんだけど、その味わいが、名古屋で通っていた店と同じ雰囲気だったのだ。
その店の名はアズュールと言って、そこのパティシエールはかつて、サダハルで働かれていたことを思い出した。
なんだか不思議だよね。この感覚は。僕は遠くへ来たつもりなのにさ。

La douces illusions


で会えたら、どんなに素敵であろうか。花咲く頃に出逢っていたら、どんなに素晴らしかったであろうか。丘の上で寝転んで、青空をゆく雲を眺めながら、君想う微睡みに沈んだ。
やがて夢の一雫が、眠りの世界に波紋を重ねた。翼を得た私は仙境に遊び、朧な月に願いてみれば、山には鶯の声が木霊して、梅の花が咲きほころんだ。
『夢、なんだよな。』
愛しき君の手をとって、そう呟いてはみたものの、甘い夢は覚めやらず。ならばこのまま二人、霞の中で踊ろうか。

Duomo mâcha azuki


パリ
pâtisserie Sadaharu AOKI paris サダハルアオキ
http://www.sadaharuaokiparis.com/



パリの小豆餡!
その楽しさと偉大さは、京都に暮らす人なら理解していただけると思います。
餡の風味は東京的で大人しいのですが、ちゃんと“あんこ”なんですよ。
抹茶にしろ、あんこにしろ、地理的にも文化的にも遠く離れた国や人を結ぶのは、ファンタジーだと思うのです。
好き・美味しい・楽しい
その3つが繋がり、橋となり道となる。これは素晴らしいことです。その道があったから、私はパリまで来れたのだと実感しました。


さて、以下は甘く無いお話しを。

私が甘いもの好きになったキッカケは、サダハルのバンブーでした。以来、東京を訪れる理由になっているのですが、その事を知っている人々からは、一度パリのサダハルへ行って来いと言われておりました。でも、
『そんなに違うの?日本にもお店はあるじゃない。』
なんて考えていたので、あまり興味を持てずにいました。
今回、運良くパリを訪れる機会に恵まれたので、散歩がてらセギュール店を訪ねてみました。これは私の、ただの想像ですが、焼き菓子やパイ生地等の、小麦が異なるのだろうと考えていましたが…驚くことに、クリームの味わいが違いました。軽さや優しさ、余韻の印象が異なるのです。卵とミルクが、日本よりも優しいのです。
少し考えてみれば、小麦やバターは空輸出来ますよね。でも、鮮度が大切な卵とミルクは、その土地のものを使わざるを得ないのです。そしてこの、卵とミルク(乳製品)ですが、断然フランス産の方が美味しいのです。
保健衛生的な条例等の違いにより、製品化される過程が異なるのが原因ですが、結局のところそれは、両国民の思想の違いなのだと思います。鮮度や清潔さでは無く、病的な潔癖性を求め、自然よりも便利を追求した結果でしょうか。
口にしたお菓子はどれも美味しかったのですが、なんだか複雑な気持ちでした。日本人が求める“美味しさ”とは、いったい何でしょうか? スイーツブームと言われて久しいですが、私達は何を求めているのでしょうか?

秋の風がメランコリックにさせるのか、深く考え込む日が続くようになりました。んー…。

Promenade du Soleil


り溢れる色彩の街。僕たちは青空を突き抜けて、太陽と共に歩いた。雲の上の夢の中で、それぞれの小さな太陽を片手に、僕たちは詩人であり、画家であり、何よりも芸術家であった。
奏でよう、太陽の歌を。永遠とも思える、夏の陽射しに溺れるように。

Citron praliné


パリ
pâtisserie Sadaharu AOKI paris サダハルアオキ
http://www.sadaharuaokiparis.com/



この時のパリはもう、夏はとっくに終わっていて、季節は秋。風は冷たく、でも時折感じる日だまりの暖かさに、僕は夏の太陽を懐かしんだりしていた。
さて、この鮮やかなる黄色は、太陽そのものをイメージさせてくれる。そこに流れるショコラと、スキップするようなノワゼット。…あぁ、これは、この風景は、ジャン・コクトーが愛した街の、太陽の散歩道だ。
味覚の先にある幻視は、光り溢れる陽炎で、高い空と深い海の、限りなく青い夢幻に抱かれていた。檸檬をすっぱいと言い切った人は、何も分かっちゃいない。この透明な感覚は、むしろうっとりとするほど甘いじゃないか。
恍惚に溺れながら、僕の中の甘い血は、詩人の夢を見続けていた。

La fillette mignonne


の時めく春の日に、麗らかに薫る恋の予感。ナイチンゲールに誘われて、月も青空に昇るのだろうか。澄み渡る景色の中で、清けし美空の歌声が、君の生まれた朝に響く。
お茶を入れようか。咲き誇る、君の笑顔のために。

SAYA


パリ
pâtisserie Sadaharu AOKI paris サダハルアオキ
http://www.sadaharuaokiparis.com/



花咲く春の丘を想わせる、愛らしいドーム。ふわりと香る優しさが、甘い心をくすぐるようで、思わず笑みが溢れた。優しさや愛情は目に見えないなんて言うけれど、そんなの嘘さ。だってほら、此処にあるじゃないか。愛情も優しさも、可愛さまでもが目の前に。
日本人の僕には、鶯の鳴き声が聞こえたけれど、此処はフランスだから、たぶんナイチンゲールが春を告げてくれるのだろう。
…ひとつ、ねぇ、1つだけ悩んでいるのだけれど、紅茶が良いのかな?それともミルク?
あの白兎がくれたこのカップには、何を入れれば良いのだろうか?それだけが、今の僕の悩みだよ。

20101122

Ma chérie



々として、秋の小径に風が舞う。麗しき貴女の歩まれた足元には、可憐な花が咲くほどに魅力的で、それなのに、凛とした眼差しながら、くるくるとレースの日傘を回して微笑む貴女を、少女のように可愛いと感じてしまったのは、私の、黄昏の戯れだと思ってください。

Religieuse


パリ
LA MAISON DU CHOCOLAT ラ・メゾン・デュ・ショコラ
http://www.lamaisonduchocolat.com/



ショコラの香りに誘われて、黄昏に店を訪れた。いくつかテイスティングをして楽しんだ後、夜の嗜みとして、気に入ったボンボンショコラと、ケークを1切れいただくことにした。
『今月の週末は、ルリジューズが出ているの。これも美味しいですよ。』
雅代さんと、ジャンバティストさんに薦められて、1つ予約することにした。
そして週末。快晴とはいかないけれど、秋らしく薫る日の午後に、予約したルリジューズを受け取って、散歩がてら公園へと向かった。
ちょうどおやつ時になったので、木漏れ日と秋風が静かに舞うベンチを見つけて腰を下ろし、箱からルリジューズを取り出した僕は、うっとりとして呟いた。
『愛しい人よ。』
それが全てだよ。美味しさは、純粋なる愛なんだ。

20101121

PAPILLONS DE NUIT


光蝶は、夜の帳にはらはらと、黄金の鱗粉で異界の星空を描く。青い魔術師は、暗闇に眠る薔薇にキスをして、長い夜に目覚めさせる。静寂に、淡雪のようなオルゴールの瞬きが、静かに降り始めた。
耽美なる夜。絡まる二人の視線の闇に、儚い幻想が咲いた。

L'Ispahan & Champagne rosè


パリ
LADURÉE Le Bar ラデュレ・バー
http://www.laduree.fr/



賑やかなサロンと、いつ見てもきらびやかなショウケースの前を通り過ぎると、静かな空間が隠れていた。パリ最後の夜だから、よく知っているものをと思い、ロゼとイスパハンをオーダーした。
違う雰囲気の中で眺めてみると、そこには僕の知らなかった可愛さが見えて、また君を好きになっていく。シャンパーニュから生まれた黄金の泡の吐息が、赤い薔薇の花びらの上で煌めいた。
例えば君が、もっと若くて、ちょっと背伸びをしたい少女であったなら、Juliette Has a Gunの香水を思い出したかも知れない。でも君にはもう、薔薇の気高さと蝶の羽根があるのだから、夜でも闇でも星空でも、何処へだって飛んで行けるさ。

君の瞳の泉を眺める僕の、深い霧に包まれた街角の劇場で、Paul Delvauxの絵画をモチーフにした、Raoul Servaisの幻想的なショートムービーが流れていた。

20101120

Lèvres scintillantes


弁が夢に舞うような、青空に咲く蝶の道。ひらひらと甘い香りを辿って僕は、君という美しい花に出逢った。そして蝶は、君の唇の端に咲く、可憐な吐息へととまる。
君が春の女神なら、僕は西風になろう。そして世界を、花々で溢れさせよう。

Millefueilles Framboise


パリ
LADURÉE ラデュレ
http://www.laduree.fr/



明るく淡い光が降りそそぐ、シノワ風味のサロン。忙しそうな人や、観光客も少なく無いけれど、ここには静かな時間が流れていた。テーブルの上には、少し遅い朝には会話を楽しみ、お昼には二人での食事を、夕方や夜には、デート前の楽しさがあった。皆、笑顔だった。
食事中の女性が美しいのは、隣に素敵な(長く連れ添った、または、昨日までは憧れだけだった)パートナーが居るからで、笑顔と美味しさの秘密は、お皿の上や、グラスの中味だけではなかった。…当たり前のことなんだけどね。
彼女たちの、楽しくお喋りする唇には、CHANELの“Lèvres scintillantes”が似合うと思った。だって、素敵に輝いて見えるのだもの。

20101119

FOURREAU NOIR


色の貴婦人は、僕の闇に咲く綺羅星。後ろ姿に恋をして、通りすぎる香りに想いを募らせた。
春の野に咲く静かな菫のように、愛らしくも誠実なる君よ。夢に舞う我が白き胡蝶を、貴女の指先に止まらせてくれないか。
そして僕はキスをした。貴女の右手に、誓いのキスを。

Religieuse à la Viollet


パリ
LADURÉE ラデュレ
http://www.laduree.fr/



お店の雰囲気は、そこに訪れる人々が作り上げると思うの。だから、最初は憧れでも構わないけれど、流行や冷やかしでは無く、愛情と喜びを連れて食事を楽しみ、感謝と未来を残して欲しいのね。
愛さえあれば、何処だって、楽園にも天国にも、秘密の隠れ家にだってなるものなのよ。裏切ったりしないわ。

僕はそんな囁きを想像したので、この素敵な彼女に似合う、香水を探してみた。耳を澄ますように記憶の香りに溺れると、寝室の暗闇に、1つの小瓶を見つけた。それはSERGE LUTENSの、“FOURREAU NOIR(宵闇のドレス)”だった。
『実は、黒いシルクの下着の様な、セクシーな滑らかさと艶やかさも表現しているのよ。上品にね。だから、この香りに惚れない男なんていないわ。』
パレロワイヤルのサロンにて、そんな会話を交わしたことを思い出していた。

20101118

Livres Week-end


辺の白いテーブルで、1冊の本を読む。そこには貴方の、この1週間の出来事が記されている。何気ない日常の中にもドラマはあるもので、主人公である貴方は、恋愛小説や推理小説に踊ることもあれば、童話や哲学、SFの森を彷徨うこともあるだろう。
銀のフォークで綴られた文字の上をなぞり、流星のナイフでページを繰る。過ぎゆく時間は文字の羅列では無く、流れゆく物語なのだ。
だから教えておくれよ僕に。貴方の話しを。貴方の素敵な1000ページを。

Millefeuille


パリ
JEAN-PAUL HEVIN ジャンポール・エヴァン
http://www.jphevin.com/



ミルフイユも週末限定。そして驚いたことに、ごく普通にエヴァン氏が接客をしているの。とても自然に。
今にして思えば、その日の僕はとても愚かだった。風邪なんてひいてしまったばっかりに、感謝と感動の言葉を、目の前にいらっしゃる、憧れのショコラティエに伝えることが出来なかったなんて!
…ありがたいことに、エヴァン氏は来日される機会が多いので、何処かでこの時の感動と、今までの感謝の気持ちを述べたいと思う。出来るだけ早くにね。

そうそう、ミルフイユなんだけど、しっかりと焼き込まれたフィユタージュは、装飾の美しい1冊の本に似ていた。クリームは、静かだけれど饒舌な、素敵な物語のようだった。
未だに、お菓子=甘いだけなんて考え違いをしている人が多いのだけど、そんな舌先だけの感覚だけでは無くて、もっと素直に味わってもらいたいと願うんだ僕は。楽しい食事と、美味しい食べ物には、語り尽くせないほどの物語と会話が溢れていると思うよ。

C'est la vie


Q

ue désirez-vous dans la vie?
そうだな、たとえばこんな、素敵なショコラがあれば、充分に人生を楽しめると思うよ。ゆっくりと流れる時間の中で、音の無い叙情のソファに腰掛けて、静かに眼を閉じるんだ。
そうするとほら、今日も良い日だったと思えるだろ?

Éclair Chocolat


パリ
JEAN-PAUL HEVIN ジャンポール・エヴァン
http://www.jphevin.com/



僕が好きなのは、福岡にあるジャンポール・エヴァンなんだけど、そこにエクレールは無いの。残念だけどさ。
だから今回が初めてのエクレールで、ちょっとドキドキした。どんな魔法をかけてくれるのだろうかって。…ファースト・キス、みたいなものだね(苦笑)
ある寒い日、楽しいはずの週末に、僕は風邪なんてひいてしまったのだけれども、このエクレールが食べたくて、フラフラとサントノレ店を訪れた。正直な話し、喋る気力も無かったので、ずいぶんと大人しくしていたと思うよ。
さて、念願のエクレール。優しく指先で撫でるように持って、そっと口付けすると…とても優しい味がした。知っている感覚と味覚が、空想の世界へと広がっていく。窓の外を見ると、曇り空は青空へと変わっていた。

僕はひとり、窓辺にて、昔付き合っていた彼女のことを思い出していた

L' île magique.


B

onne nuit. Fais de beaux rêves.
月の無い夜に、豊穣の闇と星空を渡り、遥か彼方_しかし其処は、実はとても近い_の小島へと辿り着いた。光り輝く漆黒の闇の中では、香りと夢と、愛だけが真実であった。ほら、この花のようにね。

Tartelette chocolat


パリ
JEAN-PAUL HEVIN ジャンポール・エヴァン
http://www.jphevin.com/



僕が唯一、パリで憧れを抱いていた場所が、この店だった。
だってね、僕がこんなにも甘いもの好きになる前は、ショコラと言えば、彼女がプレゼントしてくれるヴァレンタインのショコラくらい。だから1年に1度、手作りのものを美味しく食べていたんだけど、ある年、彼女がプレゼントしてくれたショコラはエヴァンのもので、以来、この店のショコラは、僕にとっての想い出になったし、愛や感謝と結びつく甘さとして記憶されるようになったんだ。
…そう言えば、亡くなった僕の祖母も、ここのショコラの大ファンだったっけ。お土産に持って行くと、いつも喜んでくれていた。

なんて事を思い出しながら席について、可愛いマドモアゼルに、こう伝えた。
『君の好きなショコラを、僕に教えて。』
そして選ばれたのが、飾り気の無い、このシンプルなタルト。でもさ、大抵の物事は、シンプルに出来ているんだ。美味しさや、愛について、僕らは難しく考えすぎていると思うよ。天国や楽園なんて、実はすぐ側にあるものなんだ。

20101117

VIVE LA FRANCE


やかに蘇る、1878年6月30日の歓喜。紙吹雪の舞うモントルグイユ通り。それは壮麗なる祝賀。忘れられない喜びと誓い。クロード・モネの絵に見る光は、きっとこんな香りであったろうと思わせる甘さ。
光り輝く中へ。あぁ、これが喜びという味なのだ。

Babs aux Chantilly


パリ
Stohrer ストレー
http://www.stohrer.fr/



パリで一番の老舗だから、いったいどんな雰囲気なんだろうかと想像していたら、意外にも気さくで庶民的で、気取ってなんかいなかった。だから僕はいつものように、幾つかを包んでもらって持ち帰り、充分に楽しんだ後、それをノートにスケッチした。
気付けば、この店のお菓子が大好きになっていたから、僕は自然とお礼を述べたくなったし、お菓子のスケッチにもメモを添えていただきたかったので、散歩の途中に再び立ち寄ることにした。
店を訪れると、レジには何人かのお客様が並んでいたので、ちょうど目が合った職人さんに頼もうとしてスケッチを見せると、
『あら、すごいじゃない。あなたが描いたの?』
レジを打っていたマダムが、横から覗き込んだ。そしてメモをしようとした職人からペンを取り上げて、(たぶん)こう言ったの。
『私が売ったんだから、私が書くのよ。』
そしてスラスラと、お菓子の説明をスケッチに添えてくださった。
Merci Madame!
並んでいたお客様ものんびりしていて、ノートを覗き込んではスケッチを褒めてくださった。
お店もお菓子もお客様も、穏やかな雰囲気に包まれていたと感じたよ。

花は、花故に美しく香るのだ。

Paris, Je t’aime


L

'amour ne se commande pas.
魔法の言葉。それはとても、ありふれたもの。でも、たった一言で、百年の夢は醒め、千年の恋に堕ちる魔法。
はじめての、長く甘いキスの後、そこには愛だけがあった。

Ali-Baba


パリ
Stohrer ストレー
http://www.stohrer.fr/



私はババが好きです。サヴァランも、アリババも好きです。あの、溺れるような陶酔感。天へと昇る恍惚感。全てを受け入れるしかないほどの、愛にも似た幸福感。
私がパリで最初に訪れたのは、老舗のStohrer(1730年創業)でした。お菓子を3つ、白い箱に入れてもらい、メトロに乗って_嬉しいと手を振って歩く癖のある私は、箱を振ったりすることの無いよう慎重に(笑)_大切に部屋へと持ち帰りました。
さて、夢にまで見た、ストレーのアリババ。それは素朴ではあるけれど、暖かみのあるブリオッシュと、優しいクリーム、残照を感じるレーズン、そしてたっぷりのラム酒。そこから溢れる愛情と甘さの果てに、ついに辿り着いたパリでの至福。
長く続く幸せの余韻の中、茜さす窓辺で出会ったのは、深く静かな喜びでした。


吐息に幸せの香る中で考えた事が、2つあります。
1つは、フランス菓子が(現在の日本のように)特別ではないこと。食文化、食生活、日常にある、ごくありふれたものなのです。
手作りでも良いし、馴染みの店のものでも良い。大切なのは、食を楽しむこと。人生を楽しむこと。食卓の上に並べられ物は、そのお供に過ぎないのです。…そう、簡単に言えば、きゃっきゃとしていないの。その代わり、笑顔が溢れているの。
だからこその2つ目ですが、それはお店の存在感と存在意義。日本で特集される、パリスイーツとか、憧れのパリの甘いお菓子とか、そんなんじゃなくて、ごく当たり前の日常に佇む、ご近所さんの味。それが幸いにも長く愛されているだけで、お店とお客が美味しいに誠実であり続けただけ。
だってさ、このStohrerにしてもLADURÉEにしても、高級_リッチとかリュクスとか私へのご褒美とか、適当な言葉を思い浮かべてもらいたい_だと考えていたとしたら、それはただの幻想で、感覚的には近所の餅屋みたいなものなのです。
ただ、その店を愛する人々が、優雅であったり、人生を楽しまれている御老人であったり、近所の幸せな家族であるだけ。食を毎日楽しまれているだけなのです。

そういった事に気付いてしまったため、事前に用意していた食べ歩きリストは、そのままゴミ箱へと投げられました。
あぁ、もっとも、自己矛盾を感じながらも1日1店は訪れていますから、パリ編はまだまだ続きますよ(苦笑)

20101116

Morning Prayer


里に着いた翌日、私はノートルダムへと向かった。結局、巴里での一週間は、毎朝どこかの教会で祈りを捧げることになるのだけれど、それが迷いの原因になったのかもしれない。いや、迷いでは無く、気付いてしまったのだ。矛盾や絶望に。
それでも私は、道を歩まねばならない。友人が、茨の道に咲くのは薔薇ですよと教えてくれたから。


パリ
Cathédrale Notre Dame de Paris ノートルダム大聖堂
http://www.notredamedeparis.fr/
6 place du parvis notre dame 75004 paris


なんだか暗い文章からのスタートですが、パリ編の始まりです。
コルマールからパリへと移動した日の夜に、ノートルダムでパイプオルガンの演奏を聴き、翌朝もまた同じ場所へ。部屋をお借りしたマダム・アンのアパートメントから、徒歩20分ちょっとの距離でした。
まだ暗い朝靄の街を歩いて教会へ着き、静かに朝の祈りを。ぼんやりと淡く光るステンドグラスを眺めながら、昨日までの過去に感謝して、今日、また新たな出会いがありますようにと祈るのでした。

夏の想い出


C

omme un petit coquelicot.
ヒナゲシの咲く、丘の上で見た夢は、風と遊ぶ君の笑顔。その微笑みがさすものがなんだったのか、今はもう分からないけれど、それはまた、夢の続きで尋ねるとしよう。

Coquelicot


アルザス
http://www.patisserie-gilg.com/


訪れたのはコルマール店。ふと目にとまったマカロンのヴェリーヌが可愛くて、隣の公園へ連れて行った。
季節は秋の始まりだから、クコリコは夏の想い出なのだろう。目を閉じると、風に遊ぶクコリコの幻が見えたので、これは白日夢のヴェリーヌだと感じた。
もう1つ、しっとりとした栗のムースを、ベンチに腰掛けて食べた。ケーキの名前は“Éphémère”とあったので、日本人もフランス人も、秋に想うことは変わらないのだと知り、クスリと笑ってしまった。
…あぁ、でもそれは慕情では無くて、“女心と秋の空(Souvent femme varie, bien fol est qui s'y fie.)”なのかも知れないよね。どちらも甘いことには変わりないけどさ。

20101115

Chanson d'Automne


L

es sanglots longs. Des violons De l'automne.
秋風に、紅葉は小さな手を振って、季節と僕らに別れを告げる。
ひと風ごとに、山々は色づいて、眺める君の横顔は、ひと息ごとに、頬を紅く染めていく。
空ばかりを眺めていた僕は、まだ君の溜息の理由を知らないでいた。

Chanson d'Automne / Paul Verlaine
霜月“紅葉狩り”




仏蘭西(France)編が続いておりますが、巴里(Paris)の前に、ちょっと京都のお話しも。
足早に秋が駆け抜けており、朝晩は冷え込み、秋の叙情に耽る間も無し。日ごとに変わりゆく色彩は人々を惹き付けるようで、京の町も観光客で混み合ってきました。
秋。それは物悲しいくも恋しい季節だとか言うけれど、何がそうさせるのだろうか。例えば、秋の次が夏ならば、もしくは、秋から1年が始まるのならば、人々は慕情を募らせるものなのだろうか?
青空から降る紅を拾い、指先でくるくると回しながら、朝の鴨川を歩いてみた。ちょっと一息。忙しい僕らの足を休ませるために、季節は美しく粧うような気がして、馴染みの場所で、一服した。紅葉をかたどった、やわらかな和菓子と抹茶で。

パリのマロニエ、公園に降り積もる秋の絨毯や、つむじ風に舞う落葉を思い出したので、旅の続きを書くとしよう。あともう少しだけ、夢の続きを。

20101114

ある貴婦人の肖像


F

emme fatale
黒の森は、朝から深い霧に包まれていた。白い世界に浮かぶ影は幻想的で、まるで夢の中を歩いているかのようだ。暖かい大地は魅惑的な薫りに満ち、空気には艶やかな花々が眠っている。静寂に咲く小鳥たちの囀りが、なんだか妖精たちのお喋りに聞こえてきた。
ぼんやりと照る太陽を見上げ、恍惚と微睡みを払うと、黒いドレスを纏い、大きな花飾りのついた帽子の貴婦人に出会った。麗しい彼女の微笑みに答えた僕は、ゆっくりと甘い運命に傅いた。

Forêt noire(griottes d'Alsace et kirsch)


アルザス
MAISON FERBER メゾン・フェルベール



マダム・クリスティーヌからいただいた、グリオットのコンフィチュール。その香りは、霧に包まれた黒の森を思い出させてくれた。静かではあるけれど華やかで、溺れるような、抱きしめられるような甘い芳醇。まるで貴婦人のようだ。
この小瓶を片手に僕は、ある1軒の店を訪れた。土産話と、甘いひとときを共有するために。
奥の部屋で、久しぶりに会う友人たちと語らいながら、パン(クロワッサンやブリオッシュアテット、クグロフやバゲットでも良いけれど、日本であれば、シンプルな食パンでも良い)と紅茶と共に楽しんだ。
たっぷりと発酵バターを塗って、マスカルポーネや、ショコラと一緒に乗せてみたり、時にはそのままスプーンで掬って食べていると、あっという間に小瓶は空になり、気付けば6時間以上が経っていた。
…早すぎる。もう夜じゃないか。僕たちは、時間までも食してしまったのだろうか?

ちなみに、_これはどうしても言いたいことなんだけど_フェルベールのコンフィチュールを日本で購入すると、¥1700~2200くらい。でも村では、€5~6程度。だから気取らずに、極々普通に楽しんで欲しい。それがクリスティーヌの願いなのだから。
最後に、このコンフィチュールを手土産にお邪魔した、お店の名前も書いておこう。この場所も、花と魔法が咲く、素敵な場所なんだ。


京都
Mesda nu kyad メスダヌキヤド
http://www.kyad.jp/

アルザスの青い空


L

e ciel bleu d'Alsace.
空の青さや高さよりも僕は、その空の広さに驚いた。遮るものの無い青空と、世界を包み込む、広大な蒼穹に。
日本でも、同じ空を見上げていたはずなのに、僕の空はこんなにも広く美しかっただろうか?心は、こんなにも澄んでいただろうか?
透明な群青と、波打つ蒼風の紺碧。緋色に薫る葡萄畑と、色とりどりの花たち。水色の夢幻に、白い羊の群れが遊んでいた。黄金の風が駆け上がる丘に佇んで僕は、不思議な尖塔の教会と村を見下ろすようにして、空と森と大地を、この眼に見えるものの全てを、両手を広げて迎え入れる。
大きく深く、深呼吸をして眼を閉じると、星のように瞬く、キラキラとした羽根のような囁きが、静かに心へ降り積もるのを感じた。
…僕はそっと、僕の言葉で、ありがとうと呟いた。


列車の時間が近付いて来た。ちょうどニコラがギターのレッスンへと向かうので、一緒に街までクルマで送ってもらった。
葡萄畑を縫うようにして、街へと続く曲がりくねった道を走る。今朝、丘から見下ろしていた村が、教会が、小さくなっていく。名残惜しそうに振り返り、窓から眺めていた僕に、マダム・エリザベスが優しくこう言った。
『また、来たら良いじゃない。』
…そうだな、また来よう。また。
花咲く春や、光溢れる夏。そして静謐なる冬。秋さえも、僕が知っているのはこの2週間だけだ。
キノコ狩り(僕が嬉々として発見するのは毒キノコばかりで、サロメとアンカトリーヌ、ブルノーにも笑われたっけ)は楽しかったけれど、葡萄の収穫は手伝っていないし、白ワインの美味しさを知ったのは10日前だし、ベックオフも食べていないし、ミラベルだって逃しているのだから!
すぐに村は見えなくなって、淡い寂しさが残った。僕は窓を閉めて、前を向く。その時、ふと微風の残り香に感じたのは、美味しかった村のワインの香り。…あぁ、そうか、丘の上で感じた煌めきと囁きは、ワインの妖精の声だったんだきっと。

日本では、妖精の村と呼ばれるNIEDERMORSCHWHIRを後にして、僕はパリへ向かう列車に乗り込んだ。

Merci beaucoup!
Merci de pour tout ce que vous avez fait pour moi.
J'espère que nous aurons le plaisir de vous revoir.
... À très bientôt!

もし、貴方がこの村を訪れることがあるのなら、持って行くものは1つだけで良い。笑顔だけ。自然な笑顔だけで良いんだ。
そして、MAISON FERBERの妖精たちへ伝えてもらいたい。カエルを連れた魔法使いが、皆さんの優しさに感謝していたと。


Le Magician
Iori Shinagawa

20101113

愛の不思議について


M

émoires de la rose
どうして薔薇は美しいのだろうか?なんて考えてみた。
もっとも、その答えはすでに、そう、ずっと前から分かっていたことなんだけどね。
溶けていく吐息の中で、僕は薔薇が生まれる瞬間を知った。

Tarte Chocolat-Framboise


アルザス
MAISON FERBER メゾン・フェルベール



最後の日はやっぱり感傷深くなり、朝霧の中、葡萄畑を散歩して、1人で教会へ行き、祈りの後もただ、ステンドグラスから差し込む七色の光りを眺めていた。
光について小一時間ほど考えた後、休日のメゾンフェルベールへ向かうと、既にお菓子教室が始まっていて、皆さん楽しそうに喋りながら、いくつものお菓子を作っていた。
僕は軽く挨拶をして二階へ上がり、クリスティーヌのパパとママに、お世話になったお礼を述べた。僕のフランス語は辞書が喋ってくれるだけだから、伝え切れないことはたくさんある。だから想いを込めて、パパの黄金のノート_前のページを捲ってみると、この店を訪れた様々な人が、メッセージを残されていた。それがパパの黄金(宝物)なのだ_に、水色のペンで書き込んだ。せめて気持ちだけは残そうと思って。
しばらくすると、下から良い匂いがゆっくりと登って来て、クリスティーヌが僕を呼ぶ声がした。降りると、ショコラとフランボワーズを使った(出来立ての!)お菓子が数種類並んでおり、試食の真っ最中だった。
『みんなで作ったの。食べてみて。それから、あなたが描いたスケッチを、皆に見せてあげて。』
僕はいつものノート(Moleskineのスケッチブックに、水色のペンでお菓子のスケッチを描き綴ったもの)を手渡して、代わりに沢山のお菓子を受け取った。タルトレット、ケーク、クレープetc.ショコラとフランボワーズを使った、お菓子の数々。
Merci!
C'est très bon!
それは、お店に並んでいるものとも違って、もっと…そうだな、もっと優しく家庭的な味だった。笑顔になるお菓子だ。そして、とても安心するお菓子。
美味しさのお礼を拙いフランス語で伝えながら、僕の描いた、お菓子のスケッチに対する評価“Magnifique!”にも感謝しつつ、ふと、星の王子さまを思い出していた。薔薇の話と、あの有名な言葉を。
見えないんだよね。簡単には。ただ、忘れているだけなんだけどさ。

20101112

Sweet Memories


À

la page mille.
前のページをちょっと読んでみたり、たまには最初から想い返すように眺めることもあるけれど、今日も純白の新しいページにペンを走らせる。時のインクと、気まぐれな羽根ペンで、ことのはを、今日の物語を書き綴るの。
時には涙で滲んだり、どんなに眺めても読めない文字が並ぶことはあるけれど、全ては想い出に変わっていくわ。昨日がそうであるように。

Millefeuille(ミルフイユ)


アルザス
MAISON FERBER メゾン・フェルベール



火曜日までノンビリする予定が、ストで列車が止まる前にパリへ向かうこととなり、皆さんの仕事を眺められるのも、今日(日曜日)が最後。クリスティーヌが、思い残すことは無い?と尋ねるから、僕はとても真剣な顔で、
『マダム、…ミルフイユを、もう一度食べたかったです。』
そう答えたの(苦笑)
『あら、今から焼くから、食べれば良いじゃない(笑)』
なんだ、日曜限定だから、平日には並んでいなかったのか。
『他には?アルザスには美しい風景や建物がたくさんあるけど、観光しなくて良かったの?』
朝から晩まで1日中、作業を眺めて(つまみ食いして)いるだけの僕を不思議に思い、遠慮しているのでは無いかと心配してくださるのだけれど、日々の作業を眺めることが、何より僕には楽しかったのです。
お菓子、パン、総菜、パーティーやデリバリー用の料理の数々、そしてコンフィチュール。こんなにも楽しいものを見放題なのに、観光している暇なんてありませんよマダム!
…あぁ、葡萄の収穫を手伝えなかったのは、ちょっと残念だったかな。
『観光は次回にします。その時はまた、案内してくださいね。』
『そうね、また来たら良いわよね。……いつ来るの?』
『ら、来年には! とりあえずその前に、次は日本でお会いしましょう。伊勢丹の、サロン・デュ・ショコラ(SDC)で。』
その後、来年日本のSDCにて披露予定のコンフィチュールの話しや、これから本番を迎えるクリスマスシーズンのお菓子の話しなどを聞かせてもらったけれど、僕が最も気になるのは…先ほどオーブンに入れられたパイ生地から、良い匂いが溢れ始めたことなんだ。
甘いもの好きにとって、こんなに楽しいことはないよね♪


食べ物の話しばかりですが、メゾンフェルベール編はもう少し続きます。
お菓子以外のフランス日記や、リアルタイムの情報は、Twitterにてご覧ください。

20101111

coeur de femme


L

e vent fait bruire les feuilles.
女心と秋の空なんて言うけれど、解せないとするならそれは、君にロマンスが足りないからだよ。あと、青空のように寛大な心もね。
秋空の下、公園のベンチで僕は、時を流れる微風に耳を澄ませ、木の葉の奏でる音楽を聴いていた。旋風のワルツの中に現れた女性に見とれていたのは、秋の幻だけが理由じゃないと思うんだ。

Religieuse(Café & Chocolat)


アルザス
MAISON FERBER メゾン・フェルベール



カフェ&ショコラのルリジューズ。メゾン・フェルベールでは、エクレール・ショコラと同じく週末限定。
日本では稀にしか見ないので、数年前、名古屋のアズュールにお願いして作ってもらったんだよね。でもフランスでは定番みたいで、街角のカフェでも普通に並んでいたから、ごくありふれた定番(古典)菓子なんだと思うんだ。
ルリジューズは修道女をイメージしたお菓子なんだけど、僕にはもっと華やかな…例えばほら、公爵夫人のような、そんな印象を感じたんだ。ノスタルジィや素朴さや慎み深さよりも、凛とした何か。それから仄かな可憐。可愛さと美味しさ以外のものが、確かに溢れていた。
僕は独り、公園で、古い石畳に降り積もる落葉の絨毯をぼんやりと眺めながら、木漏れ日の中でホッと、甘い溜息をついてみた。
見上げた青空は、とても高く美しく、その先に天国があるんじゃないかと思えたよ。

20101110

雪は白い翼を広げて


T

ombe la neige poudreuse.
優しい調べが、音も無く降り積もる。白い兎は瞳を閉じて、長い長い夢を見る。花咲く春に、愛しい君と巡り会うまで、甘い夢を見続けるんだ。

Tarte framboise(タルトフランボワーズ)


アルザス
MAISON FERBER メゾン・フェルベール



アリスが、タルトに山のようにフランボワーズを飾り付けている横で、僕は箱にそっと手を伸ばし、新鮮なフランボワーズをつまみ食いしていた。やはり、採れたてフレッシュなフランボワーズは、堪らなく美味しい。
僕のつまみ食いの回数が、あまりにも多かったからか、クリスティーヌは笑いながら1パック丸ごと手渡してくれて、こう言った。
『美味しいでしょう?好きなだけ食べていいのよ。』
Merci Madame !
そして今日も僕は、爪と唇を赤く染めるほどにフランボワーズを食べるんだ♪