20110108

ミカヅキ


月の夜。女王の眠る空は青く、星の輝く様はまるで、ゆらめく海の底に似ていた。あの深い瑠璃色は、月の夢なのだろうか?それとも静かな慈悲であろうか?
見えない姿を想えばこそ、夢の吐息に月明かりが香る。密やかに、囁くように。
愛しい君の、睫毛の先の溜息に、僕はそっとキスをした。おやすみ。眠る月夜の姫君よ。

ガトーショコラ(Gâteau au chocolat)


京都
逃現郷 とうげんきょう



気付けば其処に、ずっと前から存在していたかのようなノスタルジーを感じつつ、住み慣れた街の片隅の、気のおけないカフェに僕は入り浸っていた。
訪れるといつも銀色の猫が居て、知っている顔も何人か寛いでいたりす。マスターは相変わらず飄々としているけれど、いつもと変わらない安心と雰囲気が、今日もそっと待ってくれていた。
そうそう、店の名前は逃現郷という。それは桃源郷を捩ったものであろうと想像出来るけれど、此処は仙境や隠れ里といった別世界などでは無い。残念ながらね(苦笑)
セピア色の木漏れ日や、ひだまりのような…いや、違う。銀さん(猫の名前)があくびをしていたからそう思ったが、ちょっと違う。そうだな、うん。道草だ。道草を楽しめる場所なのだ此処は。
店の向かいは小学校で、下校時には元気な子供達の姿が見える。そんな日常を眺めつつ、僕たち大人は、こんな場所で人生の道草を楽しんでいるんだ。君たちが、ちょっと背伸びをしたら覗ける場所で、珈琲を片手にね。