風
に誘われて、名も知らぬ花に出会ったような、不思議な感覚。声無き歌に魅せられて訪れたのは、儚き逢瀬の絵巻物であったのだろうか?風に散る梅の香に、ふと見る白昼夢の如く、詩編の世界へ導いてくれる刹那の甘さ。
移ろい続ける無常の中で光る何ものかを、その一口に感じたのは幻か。
花子の和菓子の特徴は、叙事的な夢想と呼べば良いのだろうか。口にすると、緩やかに世界の境界線は淡く溶けてゆき、イメージの連鎖が始まる。
その世界に深く入り込んでも、ただぼんやりと眺めていても、短い夢にすぎない。ならば遊べば良いと、消え行く余韻の中で嘯いた。
初めの1品は、抹茶の香りが鮮やかな餅、宇治山。
穏やかで深い苦味の中に咲く甘味と、やわらかな静寂。そこに聞こえた鳥の鳴き声は、春告鳥だったか不如帰であったのか…。
宇治山と桜湯
京都
甘楽 花子 かんらくはなご