F
emme fatale黒の森は、朝から深い霧に包まれていた。白い世界に浮かぶ影は幻想的で、まるで夢の中を歩いているかのようだ。暖かい大地は魅惑的な薫りに満ち、空気には艶やかな花々が眠っている。静寂に咲く小鳥たちの囀りが、なんだか妖精たちのお喋りに聞こえてきた。
ぼんやりと照る太陽を見上げ、恍惚と微睡みを払うと、黒いドレスを纏い、大きな花飾りのついた帽子の貴婦人に出会った。麗しい彼女の微笑みに答えた僕は、ゆっくりと甘い運命に傅いた。
Forêt noire(griottes d'Alsace et kirsch)
マダム・クリスティーヌからいただいた、グリオットのコンフィチュール。その香りは、霧に包まれた黒の森を思い出させてくれた。静かではあるけれど華やかで、溺れるような、抱きしめられるような甘い芳醇。まるで貴婦人のようだ。
この小瓶を片手に僕は、ある1軒の店を訪れた。土産話と、甘いひとときを共有するために。
奥の部屋で、久しぶりに会う友人たちと語らいながら、パン(クロワッサンやブリオッシュアテット、クグロフやバゲットでも良いけれど、日本であれば、シンプルな食パンでも良い)と紅茶と共に楽しんだ。
たっぷりと発酵バターを塗って、マスカルポーネや、ショコラと一緒に乗せてみたり、時にはそのままスプーンで掬って食べていると、あっという間に小瓶は空になり、気付けば6時間以上が経っていた。
…早すぎる。もう夜じゃないか。僕たちは、時間までも食してしまったのだろうか?
ちなみに、_これはどうしても言いたいことなんだけど_フェルベールのコンフィチュールを日本で購入すると、¥1700~2200くらい。でも村では、€5~6程度。だから気取らずに、極々普通に楽しんで欲しい。それがクリスティーヌの願いなのだから。
最後に、このコンフィチュールを手土産にお邪魔した、お店の名前も書いておこう。この場所も、花と魔法が咲く、素敵な場所なんだ。
京都
Mesda nu kyad メスダヌキヤド
http://www.kyad.jp/