20101117

Paris, Je t’aime


L

'amour ne se commande pas.
魔法の言葉。それはとても、ありふれたもの。でも、たった一言で、百年の夢は醒め、千年の恋に堕ちる魔法。
はじめての、長く甘いキスの後、そこには愛だけがあった。

Ali-Baba


パリ
Stohrer ストレー
http://www.stohrer.fr/



私はババが好きです。サヴァランも、アリババも好きです。あの、溺れるような陶酔感。天へと昇る恍惚感。全てを受け入れるしかないほどの、愛にも似た幸福感。
私がパリで最初に訪れたのは、老舗のStohrer(1730年創業)でした。お菓子を3つ、白い箱に入れてもらい、メトロに乗って_嬉しいと手を振って歩く癖のある私は、箱を振ったりすることの無いよう慎重に(笑)_大切に部屋へと持ち帰りました。
さて、夢にまで見た、ストレーのアリババ。それは素朴ではあるけれど、暖かみのあるブリオッシュと、優しいクリーム、残照を感じるレーズン、そしてたっぷりのラム酒。そこから溢れる愛情と甘さの果てに、ついに辿り着いたパリでの至福。
長く続く幸せの余韻の中、茜さす窓辺で出会ったのは、深く静かな喜びでした。


吐息に幸せの香る中で考えた事が、2つあります。
1つは、フランス菓子が(現在の日本のように)特別ではないこと。食文化、食生活、日常にある、ごくありふれたものなのです。
手作りでも良いし、馴染みの店のものでも良い。大切なのは、食を楽しむこと。人生を楽しむこと。食卓の上に並べられ物は、そのお供に過ぎないのです。…そう、簡単に言えば、きゃっきゃとしていないの。その代わり、笑顔が溢れているの。
だからこその2つ目ですが、それはお店の存在感と存在意義。日本で特集される、パリスイーツとか、憧れのパリの甘いお菓子とか、そんなんじゃなくて、ごく当たり前の日常に佇む、ご近所さんの味。それが幸いにも長く愛されているだけで、お店とお客が美味しいに誠実であり続けただけ。
だってさ、このStohrerにしてもLADURÉEにしても、高級_リッチとかリュクスとか私へのご褒美とか、適当な言葉を思い浮かべてもらいたい_だと考えていたとしたら、それはただの幻想で、感覚的には近所の餅屋みたいなものなのです。
ただ、その店を愛する人々が、優雅であったり、人生を楽しまれている御老人であったり、近所の幸せな家族であるだけ。食を毎日楽しまれているだけなのです。

そういった事に気付いてしまったため、事前に用意していた食べ歩きリストは、そのままゴミ箱へと投げられました。
あぁ、もっとも、自己矛盾を感じながらも1日1店は訪れていますから、パリ編はまだまだ続きますよ(苦笑)