甘
い微睡みを夢見て笑う、春乙女。その笑顔に癒されて、冷たい風も和らぐ。高く透明な青空に、玲瓏なる月の面影を探して、辿り着いた場所には、可憐な花が咲いていた。
苺が乗ったお菓子、なんてシンプルな名前とはうらはらに、こんなにも可愛いタルト。日本には春乙女というチューリップの品種があって、その可憐さにも似ていた。
このタルト、上の苺の外側はショコラブランなんだけど、テラス席に連れて来て、どうやって食べようかと_だってほら、フォークで押さえるのも、ナイフを入れるのも忍びないほど可愛いし、実際、ちょっと硬いんだ_悩んでいたら、お店から出てきた小さい女の子が、真横でこっちをじっと見ていたんだ。
僕はフランス語は分からないので、会話の内容なんて推測なんだけど、
『ほら、あなたのケーキはもう買ったでしょう。家に帰りますよ。』
『だってママ、あのケーキも可愛いじゃない!』
『ケーキは1つだけです。』
『でも!』
そんな内容だと思うんだよね、たぶん。
僕は増々、食べるに食べれなくなり、ナイフとフォークを持って、肩をすぼめるしか無かったよ(苦笑)