輝
く果実。それは雄大なる西海へと沈む、黄昏の太陽に似ていた。煌めく黄金。艶やかなる炎。真実の蜂蜜が、夕日へと溶けていく。神の果実は、ゆっくりと楽園へ沈んでいった。闇へ、夜へ、明日と呼ばれる未来へと。再びこの果実を掴むために僕たちは、甘い夢を見るのである。星の海に、夜の静寂に、永遠と呼ばれる、束の間の幻に。
語り尽くせぬほどの夢を、僕たちは毎晩見ているのだ。忘れたなんて、言わせないよ。
Tarte Tatin
感謝と撮影の後、3つのケーキを美味しくいただき、それをスケッチして、お礼とごちそうさまを言うために、トレイを持って店内へと戻った。気付けば太陽は沈んでおり、向かいの公園は暗く、もう夜になっていた。
スケッチしたケーキを見せながら、マダムに感謝の意を述べると、
『あなた、日本人よね? ちょっと待って、ウチにも日本人がいるのよ。』
そう言って、奥から土屋さんを呼んできてくださった。仕事の手を休めて彼は、丁寧に私のスケッチの隣に、それぞれのケーキの説明を書いてくれた。
桃のケーキと苺のタルトは詳細を書いてくださったのだけれど、面白かったのが、このタルトタタン。
『これはね…おいしいりんご!それが全てだよ!』
確かに。一目見ただけで伝わってくる程に、この林檎の美味しさは素晴らしく、正に黄金の林檎であった。
(神話に登場する“黄金の林檎”のほとんどは、実はオレンジやトマトの事らしい。…でもさ、そんな事を言う古の彼らは、このタルトタタンを知らなかっただけなんだよきっと)
お忙しいのにシェフも顔を出してくださり、幸運にも直接お礼を述べることが出来た。
そしてやっぱりシェフも、こう言われるの。
『うん。美味しい林檎だ。それをガレットブルトンヌに乗せただけだからね。』
その笑顔には、力強さと優しさが見えた。
…ねぇ、シェフ、僕が知っているのは、黄金の林檎を手に入れることが出来るのは、神と英雄と、色男だけだったはずですよ♪