B
onne nuit. Fais de beaux rêves.月の無い夜に、豊穣の闇と星空を渡り、遥か彼方_しかし其処は、実はとても近い_の小島へと辿り着いた。光り輝く漆黒の闇の中では、香りと夢と、愛だけが真実であった。ほら、この花のようにね。
Tartelette chocolat
僕が唯一、パリで憧れを抱いていた場所が、この店だった。
だってね、僕がこんなにも甘いもの好きになる前は、ショコラと言えば、彼女がプレゼントしてくれるヴァレンタインのショコラくらい。だから1年に1度、手作りのものを美味しく食べていたんだけど、ある年、彼女がプレゼントしてくれたショコラはエヴァンのもので、以来、この店のショコラは、僕にとっての想い出になったし、愛や感謝と結びつく甘さとして記憶されるようになったんだ。
…そう言えば、亡くなった僕の祖母も、ここのショコラの大ファンだったっけ。お土産に持って行くと、いつも喜んでくれていた。
なんて事を思い出しながら席について、可愛いマドモアゼルに、こう伝えた。
『君の好きなショコラを、僕に教えて。』
そして選ばれたのが、飾り気の無い、このシンプルなタルト。でもさ、大抵の物事は、シンプルに出来ているんだ。美味しさや、愛について、僕らは難しく考えすぎていると思うよ。天国や楽園なんて、実はすぐ側にあるものなんだ。